館長挨拶(在任:2012~2015年)

※館長就任時の内容です。

大船渡市「デジタル公民館まっさき」ごあいさつ

大船渡市「デジタル公民館まっさき」運営協議会 代表
大船渡市末崎地区公民館 前館長(平成27年3月末館長退任)
近藤 均

○公民館の底力

働くところもない、お店もない、楽しいところもない。そんなまっさき(大船渡市末崎町)を、住んでいて楽しいと思ってもらえる、そういう情景のまちにしたい。

3.11、未曾有の大震災でまっさきも甚大な災害を被りました。全半壊約600戸(40%)、死者行方不明者62名。細浦の私の自宅はかろうじて津波を逃れましたが、その下の集落は津波ですべて流されてしまいました。長年、苦楽を共にしてきた隣人、友人、知人、教え子などを失ったことは誠に無念であり、残念でなりません。

しかし、落ち込んでいる暇はありません。全力で復興・再生を図らなければなりません。幸い、多くの方々からまっさきは手を差し伸べていただいております。復興支援ITボランティアとして毎月、ふるさとセンターで活動してくれる学生・社会人の方々の熱意や笑顔にも、力をいただき、高齢者や女性、子どもたちの楽しみになっております。 まっさきは大震災の前から、少子高齢化が進み、漁業・水産業を除いて確たる産業もなく、かつ情報インフラが未整備で、住民のICT利用もままならなかった、まちの再生と暮らしの自立を、ITボランティアの方々のコミュニティ再生支援の活動の力も借りながら公民館の底力で立ち向かいたいと考えています。

○まっさき(末崎町)地域の状況

昨年(平成23年)8月以降、被災住民が避難所から仮設住宅に移った段階から、「末崎町復興推進委員会」という住民組織をつくり、復興へ向けて協議をしたり、要望を出したり、大船渡市からも数十回説明に来ていただいていますが、最初に取り組んだのは、高台集団移転のための土地の確保、公営住宅建設促進の活動でした。
まっさきでは200戸以上の方が高台移転を希望しています。大船渡市からは高台移転計画を住民主導で進めるということで、5戸以上が集まって計画をまとめ、用地が決まれば国の予算を活用しての住宅建設が可能という提示がされましたので、みなさんにお話しを聞いたところ、元、住んでいたところの元の仲間たちが一緒に暮らせる場所を探そうという要望が多くを占めました。
まっさきでは市の指導もあり、取り組みも早かったので、すでに用地の確保が約90%は決まってきており、これを100%にしたいと思っています。

また、住宅、道路はなくてはなりませんが、そこ住む住民の暮らしには、先祖から受け継いできた文化や人と人のつながり、若者や女性の働く場、雇用の場がなくてはなりません。とくに少子高齢化が進む中で、まっさきで暮らし続けて行くには、単なる復興に加えて、新しい魅力をつくりださなければ、若者の流出や転出した住民の復帰がままならないばかりか、子どもや高齢者に希望は見いだせないのではないでしょうか。

まっさきは細浦、大田・門之浜、泊里という三つの漁港と陸中海岸国立公園の碁石海岸で栄えてきたまちですが、13メートルから16メートルの津波により、漁港は破壊され、漁船は流され、地盤沈下もあって、基幹産業の漁業、水産加工業が壊滅的な打撃を受け、体験型宿泊施設等も甚大な被害を受けています。
以前は毎朝、大漁旗を掲げた漁船が次々に港に入ってくる光景が普通だったのですが、まだまだ、そういう状況にはなっていません。

住民にどんなまちにしたいか、ワークショップやアンケートを行ったところでは、

  • 高齢者がリラックスして集えるまち
  • 支え合いの輪のある、人と人との絆の強いまち
  • 若者が定着するための働く場所があるまち

などが挙げられています。

幸いまっさきは養殖わかめ発祥の地であり、わかめ、昆布、かき、あわび、といった品質の良い海産物があるほか、お茶や椿の北限でもあり「北限のお茶」「北限の椿」等のブランド化をすることで、企業を立ち上げ、雇用の場を確保してはどうか、スポーツの盛んな土地柄を生かして、被災地域に野球場と合宿所を設けて高校野球チーム等の合宿練習を誘致してはどうか、大船渡市栽培漁業協会の再建に合わせ水族館を計画してはどうか、など、さまざまなアイデアが出されていますので、これらの実現に向けて英知を結集し、地域公民館のそもそもの使命である、地域の課題解決の場、そのために人が集い、人が育つ場にしていきたいと考えています。

○デジタル公民館まっさき

地域を再生するための課題は山積しておりますが、基本的な取り組みとしては、大震災からの復興(住宅の高台移転や漁業・水産加工業復活)、少子高齢化社会における地域再生(高齢者を含めた全員参加の地域づくり)、末崎町ならではの未来づくり(歴史・文化・自然環境・立地を活かした6次産業への挑戦)・・・の三つがあげられます。

昨年(23年)、12月より、まっさきの大田仮設住宅・談話室で行われてきた復興支援ITボランティアの活動は、活動拠点を大田仮設から隣接する公民館(ふるさとセンター)に移して継続してきていただいています。これによって、仮設住宅で暮らす住民の方だけにとどまらず、みなし仮設で暮らす方々や、住宅の被災は免れたものの、職場を失った方、もともと情報化に取り残された地域にあって、ICTとの出会いに恵まれなかった方々など、まっさきの様々な住民の方々に、パソコンやインターネットに親しむ環境を提供できるようになりました。
「デジタル公民館まっさき」はこうした取り組みを経て、コミュニティの再生に貢献すべく、大船渡市“デジタル公民館”まっさき運営協議会を組織し、平成24年度文部科学省「学びを通じた被災地のコミュニティ再生支援事業」の採択を受け立ち上げました。住民のITリテラシーの醸成。コミュニティ再生の人材づくり、まっさきの地域情報発信とネットを通じた全国との交流、地域の課題に取り組む拠点としての公民館の強化をめざして活動していきたいと考えています。
自分を含め、ICTには疎い住民が多いのは事実であり、事はそう簡単ではないと思いますが、まっさきの未来のために、子どもたちが豊かなふるさとを手にすることができるように、みなさん協力くださいますよう重ねてお願い申し上げます。

(平成24年9月吉日)