館報まっさき 第329号(令和4年5月20日発行)

空飛ぶクルマ

未来の乗り物と思われてきた「空飛ぶクルマ」の実用化が、いよいよ秒読み段階に入ってきたといわれている。渋滞で混雑する道を避け、空飛ぶクルマで目的地まで一飛びで行く。そんな世界が間もなく現実なものになろうとしているのだ。
慶応義塾大学大学院付属システムデザイン・マネジメント研究所顧問の中野冠先生は、空飛ぶクルマが実用化されると、私たちの社会は大きく変わる。国はすでに政策協議を始めている。国土交通省は、交通ルールや離着陸場の整備規則の検討を始め、経済産業省は新産業の勃興を期待してサポート体制を整えようとしている。企業もバッテリーなどの技術革新に挑み、空飛ぶクルマを使った新事業の検討も始まっている。人々の生活が変わり、便利になる半面、騒音問題などが発生するので、実用化の前に住民の理解を高めておくことが重要だともいっている。
世界の空飛ぶクルマの開発状況は、アメリカ、ドイツ、中国が進んでいる。韓国もアメリカ在住の研究者を呼び戻して開発を進めている。空飛ぶクルマは、無人ドローンとともに軍事技術に近いためアメリカや中国などでは国が援助しているので、技術開発が猛スピードで進んでいる。世界では三百から四百社の企業が開発競争を繰り広げ、すでに多くの企業が試験飛行に成功し、投資家から資金を集めて上場している企業もある。ところが日本は投資家からの資金援助が少なく開発が遅れているという。
日本のベンチャー企業が開発しているのは、諸外国と違って、1~2人乗りの小型のもので離着陸にも場所をとらない小回りのきくものである。2025年に開催される「大阪・関西万博」では、会場内で空飛ぶクルマを飛ばす計画を立てているので体験できるであろう。

空飛ぶクルマとは、明確な定義はないが、二つのカテゴリーに分かれている。
①電動で垂直に離着陸する空の移動に特化したタイプ。一般のドローンに近く、滑走路は不要で道路も走らない。構造的には、このタイプが主流である。バッテリーやモーター、自動運転の技術開発も期待されるから産業振興としても重要である。
②空陸両用車。車から翼が出て航空機に変身し、滑走路を走って飛び立ち、再び滑走路に戻ってきて着陸し、両翼を畳んで格納して車の姿に戻って道路を走るタイプ。重量があるので、現時点では滑走路が必要である。
空飛ぶクルマの活用でもたらされる効果。
①スマートな移動の実現:道路交通の枠にとらわれない立体的な移動が可能に   目的地に向かう際、電車やバスタクシーなどを乗り継ぐ回数が減り、道路に依存していた経路もほぼ直線で結ぶことが可能となるため、航行距離や所要時間を大幅に短縮することができる。また、比較的本島と 近距離に位置する離島へ の交通手段としても活用 可能。
②緊急車両への活用:災害や事故現場に柔軟に対応
 交通事故などの際、救急車両として活用すれば、到着時間を大幅に短縮し対応できる。また、大規模災害によって道路交通が遮断された場合も、迅速な救助や現状把握、調査活動などをスムーズに行うことができる。
③新たな観光資源化:誘客効果は絶大
移動しながら優雅な旅を楽しんだり、ヘリコプター遊覧の簡易バージョンとして安価に楽しんだりすることもできるので観光の目玉となる。
④物流への活用:ドローンの応用形で物流でも活躍
空飛ぶクルマは一定程度の荷物を運ぶこともできる。アクセスの悪い場所への効率的な宅配など、物流面への貢献にも期待大。今後、一層進化しあらたな活用が生み出されることを期待したい。