<まばたきの役割と重要性>
私たちは、1分間に平均20回、起きている1日に換算すると約2万回もまばたきしている。しかし、このうち約18%、つまり5回に1回は残念ながら不完全なまばたきに終わっている(とじきっていない、速すぎる)と推計されている。不完全なまばたきの割合が多いと、まばたきによる圧力を十分に受けられず、涙の脂分を作るマイボーム腺がふさがって機能しなくなり、涙の質が低下するというのだ。
慶應義塾大学医学部眼科学教室特任准教授である綾木雅彦先生は、まばたきの優れた機能を治療に生かし、かつ、まばたきの重要性をつぎのように述べている。
涙の役割とまばたきの関係
涙には、大事な役割がいくつもある。
①血管がない目の表面に酸素や栄養を届けたり、②傷を治したり、③殺菌作用をもつ物質で微生物の侵入を防いだりする。さらに、④目の表面をうるおしてなめらかにする。
お陰で光が正しく屈折し、視界が鮮明になる。つまり、 実用視力(日常生活で感じている見え方)を上げられるというのだ。涙は上のまぶたと下のまぶたがしっかりくっつくことで、刺激を受けた涙腺から涙液が出る。すると、古い涙と新しい涙の交換も行われる。つまり、「完全なまばたき」により涙液が十分に分泌され、新鮮な保護膜が常に目に張られることで、目にとって理想的な状態がキープでき、実用視力にもいい影響がおよぶというのである。
デコボコだと見えるものも見えない
目は習慣や年齢で遠くが見えなくなったり、近くが見えづらくなったりするもの。年齢を重ねても「長く・よく視る力」を更新していくことは可能だ。若い人の目も、中高年以上の人の目も、目の条件をと整えれば「長く・よく視る力」は確実に上げられるという。反対に、どんなによく見える目でも、目の表面「角膜」がデコボコだと、遠くも近くも、きちんときれいには見えない。
角膜は「黒目を覆う膜」で、透明な組織。視覚の情報となる光を目に取り入れる最初の部位なので、とても大事な目の入り
口である。角膜の表面は、基礎分泌される涙で常に覆われ、守られている。
私たちは、この涙のベールを通して、ものを見ている。目の表面が適切に潤っていることで、光がうまい具合に屈折してものがよく見える仕組みになっているのである。だが、涙の量が減ると、角膜上にあるごみを取り除けなかったり、角膜表面からなめらかさが失われてデコボコになったりしてしまう。すると、光をうまく取り込めず、鮮明に見えなくなる。
涙は3層構造
角膜を覆う涙の層は、わずか約7マイクロメートル(1マイクロメートル=1ミリの1000分の1)。しかも、3つの層から成り立っていて、この3層構造こそ、よく見える目のキーポイントである。もっとも表面の層「油層」は、涙が蒸発するのを防ぐ役割がある
。この油は、マイボーム線と いうまぶたの際にある器官から分泌される。真ん中は、涙の約98%を占める「水層」。おもに水分であるが、タンパク質や酸素、脂質なども含まれる。3番目の層は、粘りけのあるムチンからなる「ムチン層」である。涙がはじかれず、角膜上にきれいに分布できるのは、このムチンのおかげ。涙が流れ落ちないように、目の表面に糊のように粘着している。
この涙の層が均一でなくなり 、目の表面からなめらかさが失われると、光が適正に目に入らず、散乱する。すると、目のかすみやま ぶしさ、見えにくさなど、実用視力に影響がおよぶことになる。まばたきの役割
この貴重な涙を分泌し、かつ均一に広げる方法こそ「まばたき」である。しっかりと涙を出し、3層の成分をきちんと整えて目に行き渡らせることは、まばたきにしかできないのである。
(参考資料)視力防衛生活、綾木雅彦著